いつも飄々と、どこか謎のベールに包まれた存在の板尾創路。お笑い界きっての異才・変人として伝説は数知れず、替えの効かないオンリーワンの地位を確立してきた。近年は俳優や映画監督としても才能を発揮。今回、自身にとって10年ぶりとなる冠番組であり、芸人史上初となる縦型コント『板尾イズム』の制作に挑み、企画・演出から編集の細部にいたるまで大きなこだわりをみせた。板尾創路のシュールな世界は縦型動画と出合いどんな化学反応を起こすのだろう?
最初に縦型動画でコントをと考えたとき、ちょっとだけ抵抗感はあったんですよ。でも逆に、画角の制限がある方がおもしろくなるだろうという予感もしました。縦型コントをやりませんか?という話をいただいて…別に断る理由はないし僕の寿命が縮まるわけでもないですしやってみようとなりました(笑)。
『上下関係』には柿本ケンサク監督による縦を活かした演出やカット割りがよく登場します。僕はそのなかのひとつに、小津安二郎監督の映画『東京物語』(1953年)を初めてみた時の驚きを重ねました。その映画ではヒロインが義理のお父さんにあることを告白するシーンがあり、瞬間、役者がパッと視聴者の方を見る…つまりカメラに目線を向けるんです。当時、そんな目線のお芝居はなかった。まるで僕自身が画面の向こう側から直接語りかけられているような感覚になり息を呑みました。
『上下関係』にも各話で役者がカメラ目線で語る演出があって、しかもそれを手の中のスマホで観るわけですからドキッとしますよね。画面越しに1対1で対峙した役者に、心のプライベートゾーンにまで踏み込まれるようなスリルがあります。この視聴体験はテレビだとちょっと難しいだろうし、だからこそスマホでの縦型コントを作るのも楽しみでした。
コントはいわば僕の家業。前作から時間が空いたからって「看板を下ろした」と言われるもの不本意ですし、若い頃からずーっとふざけて生きていますから。むしろ逆に、まじめに何かをやれと言われる方が緊張しますよ(笑)。
もちろん座長として作品に責任があります。そこはもう、これまで積み重ねてきたコントの感覚と自分の価値観を信じてやるしかない。撮影ではとくにリハーサルもせず「とりあえず一回やってみましょう!」と手探り状態でしたけど、収録映像が蓄積されるうちに、「ああ、これはいいモンになるな」っていう手応えはありました。
展開のなかでマストのセリフは台本にありましたが、それ以外は僕がやりながら思いついた動きをどんどん共演者さんに送って、それをひたすらみなさんが“受けていく”流れでした。想定外のアドリブにもサラッと付いてきてくれてとても心強かったです。
たしかにお笑いは、“受け”で決まるような一面があります。相方の動きやボケを“受けて”リアクションする方が、ひたすら濃いキャラで“攻め”続けるよりも断然難しいんですよ。お芝居も同じく、共演者の動きを受け入れてナンボだったりするんです。
今回のコントでいうと、僕は“受け”であり、“攻め”でもありたいと思いました。共演者のみなさんと互いに間合いを詰めながら笑いの応酬をしたかったし、実際そんな感じでした。
振り返れば、一時代を築いたあの番組に出演させてもらったからこそ僕はいろんなことを期待してもらえて、それが僕の中で大きなプレッシャーにもなって。『ごっつ』があったから、今回の『板尾イズム』がある。そういうことやと思います。
美容室が舞台の「グローバルトレンディ」シリーズは、それこそ美容室の鏡がカメラの枠になっていて縦型動画のイメージを一番作りやすかったです。鏡=カメラ目線でコントを繰り広げるキャラクターをスマホの距離感で観ると、その個性が無意識レベルで強烈に脳ミソに伝わってきます。
それから、初回ゲストの坂井真紀さんの度胸と器用さには驚きましたね。コントというアウェイな現場に当日ポンと入っても慌てることなく、きっちりとやりきっていただきました。他の皆さんもアドリブにすごく柔軟で、須賀健太さんやゆりやんレトリィバァらも同じシリーズに出演してもらいましたけど、それぞれまったく違う仕上がりになっています。
これは僕自身、LIVE配信がいったいなんなのか最後までよく分からないままやりました。ライバーがなんたるかが判然としないおじいちゃんの役なので、あえて完成のイメージから逆算してそうしたんです。だからただカメラの前に座っていただけというか。特段おもしろいことを仕掛けた実感はあまりありません。そこにうまくズレが生じておかしみに繋がってくれたらいいなと。
とくに「人気ライバー山田」は時間がかかりましたね。撮影素材がどうしたら少しでも面白くなるのか、削ったり、エフェクトをつけたり。細部にこだわることで全体のクオリティーが引き上がるから、気になる部分は修正を重ねました。
まぁ、そんなエフェクトを選んでいるのは、よく分かっていない僕なので。LIVE配信をいつも観ている人に、どう思う?と感想を聞いたりもしたけど、エフェクトがどれくらい効果的だったのか、僕にはわかりません(笑)。
これはもっともストーリー性と連続性があって、コントというより演劇に近い感覚で作りました。さぁ、ここで大爆笑!という山場はないけど、各話を最後まで観てクスッと笑ってもらえたら。
現場ではいろいろなカメラワークを撮影して、たくさんの素材を編集で大胆につないでみたり、削ってみたり、まるでパズルを組むように仕上げていきました。サウナで共演した浅利君は、僕自身探り探りでやっている状況のなか、自分なりに考えて“受け”の芝居をしてくれたのでとても助かりました。
僕らって、もはやスマホに対してひれ伏しているじゃないですか?昔はガラケーでいいやんと頑なにスマホを拒んだこともあったけど、いまや、もうね。スマホで動画を観ている最中にLINEのメッセージは飛んでくるし、電話もかかってくる。だけど、それはテレビでお笑い観ていても同じやし、完全に生活の一部です。
いや、これは別に僕がつけたタイトルじゃないので(笑)。
うん、まぁ、それが正解なんやと思いますよ。「なんやろ、コレ?分からんけど、まぁ、板尾ってことでしょ?」ってことですもんね?あえて自分で言葉にするなら、僕から出ているリズム、秩序、匂い。あ、匂いはないか。つまり私自身なのだということです。
ずっと手探りだった分、作品が完成して見えてきたものがあります。もしかしたら横画面でいつも観ているコメディやお芝居がベースにあって、それを縦型でなんとか表現しようと意識しすぎたのでは、とも思うんです。なんなら“横の世界”は一旦忘れて、キャラクターのバストアップと、表情だけをつないで構成するコントなんかもおもしろいのかもしれない。次にやってみたいアイデアがどんどん湧いてくるところに、縦型動画の可能性を感じています。
取材・文=城リユア(mogShore)、撮影=中野理
板尾創路
1963年7月18日生まれ、大阪府出身。大阪NSCに4期生として入学。1987年、ほんこんと蔵野・板尾(現130R)を結成。『4時ですよ~だ』や『ダウンタウンのごっつええ感じ』などで人気者に。役者としてNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』や、朝ドラ『おちょやん』などのドラマや映画に多数出演。映画監督として『板尾創路の脱獄王』『月光ノ仮面』『火花』を手掛けている。
タイトル | LINE NEWS VISION「板尾イズム」 |
配信日 | 9月1日(水)18時~(毎週水曜日:全10話) |
主演 | 板尾創路 |
共演 | 浅利陽介、ami、坂井真紀、里内伽奈、須賀健太、村上純(しずる)、ゆりやんレトリィバァ ※五十音順 |
プロデューサー | 橋尾恭介、立川聖 |
クリエイティブ・プロデューサー | 仁志光佑 |
脚本 | お〜い久馬、村上純(しずる)、野村有志 |
監修 | 増本庄一郎 |
監督 | 大眉俊二 |
キービジュアル 撮影 | RK |
番組LINE公式 アカウント | https://line.me/R/ti/p/%40oa-vi-itaoizm |